山路(やまじ)きて 何やらゆかし すみれ草
春の山道を歩いてきて、ふと道のかたわらに目をやると、小さなすみれの花がさいている。その色・形がつつましく何とも心ひかれることだ。
「ゆかし」=心が引かれる、おくゆかしい、という意味。季語:すみれ草(春)
秋深き 隣(となり)は何を する人ぞ
荒海や 佐渡(さど)に横とう 天の川
荒れ狂う日本海の荒波の向こうには佐渡ケ島がある。空を見上げると、白く美しい天の川が、佐渡の方までのびて横たわっていて、とても雄大だ。
季語:天の川(秋)
梅が香に のっと日の出る 山路かな
早春の山道を歩いていると、梅の香りにさそわれるかのように、太陽がのっという感じで顔を出した。
春の喜びを味わっている。季語:梅(春)
菊(きく)の香(か)や 奈良には古き 仏たち
菊の香がただよう奈良のまち。その香りの中に古い仏像たちがひっそりとたたずんでいる。
季語:菊の香(秋)
五月雨を 集めてはやし 最上(もがみ)川
降り続く五月雨を集めて、最上川はまんまんと水をたたえ、ものすごい勢いで流れていることだ。
最上川は、山形県にあり、富士川・球磨川とともに日本三大急流の一つ。季語:五月雨(夏)
閑(しず)かさや 岩にしみ入る 蝉(せみ)の声
あたりは、ひっそりと静まり返って物音一つしない。その静かさの中で鳴き出したせみの声は、岩にしみ入るように感じられることだ。
「静かさ」ではなく、「閑かさ」と表現して、さびしく物静かな情景を強調している。季語:蝉の声(夏
旅に病(や)んで 夢は枯(か)れ野を かけめぐる
旅の途中、病気でたおれて床にふしていても、夢の中で心は枯れ野をかけめぐっている。
季語:枯れ野(冬)
夏草や つわものどもが 夢の跡(あと)
かつて戦場だったこの地に来てみると、功名を競った義経や藤原氏一族の夢のあともなく、ただ夏草がしげっているばかりだ。
「つわものども」は、勇ましい武士たちのこと。季語:夏草(夏)
初時雨(はつしぐれ) 猿(さる)も小蓑(こみの)を ほしげなり
山中で時雨が降ってきた。冷たい時雨にぬれる猿のすがたは、小さい蓑をほしがっているようだ。
「小蓑」は、今で言うかっぱのこと。季語:初時雨(冬)
古池や 蛙(かわず)とびこむ 水の音
古池にとつぜんかえるが飛びこんだ。その水音が一瞬あたりの静けさを破ったが、またすぐもとの静けさにもどった。ほんとうに静かだ。
「かわず」=かえるの古い言い方。季語:蛙(春)
ほろほろと 山吹(やまぶき)散るか 滝(たき)の音
ごうごうと音をたてて落ちる滝のひびきにさそわれるかのように、山吹の花びらがほろほろと散り落ちることだ。 季語:山吹(春)
名月や 池をめぐりて 夜もすがら
空には名月があり、池にも月影がうつっている。その美しさに心を奪われて、池のまわりを歩きながらながめているうちに、つい一夜を過ごしてしまった。
季語:名月(秋)
六月や 峰(みね)に雲置く 嵐山(あらしやま)
夏、嵐山の上に入道雲がもくもくと立ち上がっている。力強さを感じる嵐山の夏景色もいいものだ。
季語:六月(夏)